第三章 高島舞の逆襲

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 今日の登校謹慎のメニューを終えて学校から出てきた緑は、疲れ切っていたし、うんざりした表情だった。頬の縫った傷跡が痛々しい。会うたびに髪の色が変わっているが、今は謹慎中らしく髪はまた黒くなっている。  「緑君!」  私を見てなぜか怒ったような顔になった。  「なんでここにいるんだ?」  「心配だったから」  今度は苦笑いしている。  「あのあと佐野と会った?」  「昨日……」  緑はそれきり黙って、私も何を言っていいか分からなくなって、沈黙が続いた。  「今からめっちゃダセーこと言っていいか?」  私はうなずいた。  「おれが命がけで原のために戦っても、おまえを抱いて慰めるおいしい役目は佐野に持ってかれるんだよな。別におまえを責める気はないけど、それが無性に腹立つときがあるんだ」  なんだろう? 胸がドキドキする。瀬海とはまだそういう関係になってないと教えた方がいいのだろうか。なんのために? 教えたら緑はなんの遠慮もなく私に接近してくるだろう。そうなることを私は望んでいるのか?  「口に出したら、思った以上にダサかった。思い出したら死にたくなるから、おれが今言ったことは忘れてくんねえか?」  緑の顔はもう怒っていなかった。確かに、恥ずかしすぎて消えてしまいたいという表情そのものだった。  「忘れないよ」  私はそう言って、緑に背を向けて駆け出した。緑からいくら離れても、胸の鼓動は収まらなかった。  その日の夜、卑怯な私は陽子に電話して、まだ瀬海とはそういう関係になってないことを打ち明けた。陽子に教えたら緑に伝わるのを分かった上で。  瀬海を毛嫌いしている(瀬海を気に入っている人間は私のまわりに一人もいないのだけど)陽子は本当に喜んでくれて、  「絶対に自分を安売りするんじゃないよ」  姉のように私にそう言った。  「そういうこと、陽子さんにいろいろ教わりたいです」  「おまえかわいすぎ! あたしが男だったら恋人になったのに」  かつて同じことを妄想したことがあることを思い出して、私は赤面した。
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