プラチナ・ナイト

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 和の商品を扱う家業から和風の家を想像していた私は、あまりにスーパーモダンな家に驚いた。そして、雑誌の取材と聞いて早めに帰宅したご主人が、これまた素敵な長身の男性で二度驚いた。世の中にはすべてを手に入れる種類の人々が存在するのだ。そのご主人が、友人がやっているという店だと紹介してくれたのがPTである。紹介が無いと客として受け付けないから、おひとりでもご友人と一緒でも、行くときは僕に連絡ください、初回だけご同行しますから、と言われた。会員制ですか、と聞くと、ご主人、岡部氏はう~ん、会員制って訳じゃな無いんだけどね、と曖昧な返事をした。  PTの黒い小さなドアを開けると、店が左側に広がり、黒い大きなカウンターの中央には、ダイナミックに季節の花が活けられ、その後ろに酒瓶やグラスが並び、入り口側の壁に四人掛けのテーブルが四つ、それだけだ。岡部氏が手を上げると、この店のママであろう女性がにっこり微笑む。その女性は彫りが深いという訳ではないが、なぜかダイアン・キートンによく似ている。 「久しぶりじゃない。」 女主人が寄って来て、岡部氏に軽くハグをした。仕草までアメリカナイズされている。岡部氏が私の耳元で、彼女、僕の初恋の人なんだ、と言ったので私は、えっ?と驚いて岡部氏の顔を見上げると、彼は人差し指で自分の口を押え、ニンマリ笑った。  店にはそのダイアン・キートン似の佳子さんと若くてびっくりするくらいハンサムなバーテンダー賢治君のふたりだけ。 「電話貰ったから、ほかの客を何人か追い出して、何とかテーブルを開けたのよ。今夜は思い切り飲んでいってね、」とウインクした。  岡部氏が電話で人数を告げたのだろう。四人掛けのテーブルがふたつくっつけてある。私はジャケットを脱いで椅子の背に掛け、カウンターの後ろに並ぶ酒瓶を眺めた。ドンペリ、クリュッグ、テタンジェ、シャンベルタンやマルゴー、久保田、真澄など、チャンポンで飲んだら頭もお財布もとんでもないことになりそうな組み合わせである。メニュー、有りますか?と聞くと、やだ、そんなもの無いわよ、とあっさり言われた。
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