プラチナ・ナイト

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「あ、私は吉本美鈴。東京生まれだけど吉本。可笑しくも何ともないけど、そのせいで会社の宴会でくだらない芸を期待されちゃうのよ。早く結婚でもして姓を変えたいんだけど、言った通りバージンじゃ見込み薄よね。」 そう言ってポケットから名刺入れを出し、私に一枚差し出した。大手の化学メーカーの住宅部門の営業職だ。私も慌てて名刺を渡した。 「毎月読んでる愛読誌だわ!ねえ、記事書いて欲しいからって新作の化粧品が段ボールでど~んと届くってホント?」 「美容班の子には。」 私は隣に座って、さっきからのやりとりに参加できずに寡黙な後輩の美樹を振り返った。まだ、大学出たてで、初々しさが残る。 「まあ、そういう恩恵はあります。」 美樹が話に参加できたのが嬉しそうな様子で言った。 「どうりでお肌ぴかぴか、ね。私なんかスキンケアに月五万は使ってるのに、期待するほどの効果は無し。」 「高い化粧品より、シンプルなケア、二週間に一度エステで肌を徹底洗浄してマッサージするのが一番効果あると思います。メーカーに怒られちゃうからオフレコですが。」 しばし、化粧品談義で華が咲く。 「で、由美さんはどんな恩恵があるの?」 「私はファッション班の中でもライフスタイル担当で、役得とかってはあまりありませんけど、たまに海外や国内出張で美味しいものを食べるくらいかな。」 美鈴のテーブルにいた別の女性がやって来て、話に加わった。 「ライフスタイル。じゃあ、女優とか会ったりするんだ。いいなあ。」 「それはあります。同じ女に生まれて、あまりの容姿の違いに落ち込むし、気を遣って疲れるだけだけど。」 ははは。美鈴が笑った。 佳子さんが突然、話に割って入って来た。 「あら、散々いじくられて見られて褒められれば、誰だってそのくらいのレベルには到達出来るって。女優と一般人の違いなんて扱われ方、かまわれ方の違いよ。」 「でも、例えばファッションページのモデルたち。どうしたらあんなボディーになれるんだろうって、不思議なくらいスタイルがいい。写真じゃなくて実物見るともう、圧倒されるもの。」 「確かにプロポーションは生まれつきのものだから、それはどうしようも無いわね。でも、男性は必ずしもモデル体型を好きなわけじゃないでしょ。」 佳子さんが岡部氏に向かって言った。岡部氏の奥様は小柄で、折れそうに細く可憐だ。
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