黒猫と酔っ払い

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その奇妙な店は突然現れた。 いや、それまで気にも止めなかったから単に存在を知らなかっただけかも知れない。 ミスが続いた仕事の憂さ晴らしにと、同僚に連れていかれたキャバクラで、味も値段も種類さえも分からないようなアルコールを勢いで流し込んだ結果、薄暗い路地裏で吐きまくり、そのまま座り込んだ目の前にふっと現れたように思えた。 桧なのか欅なのか、はたまた松なのかも知れないそれほど大きくはない看板。 他にそれらしき物もなく、そのかなりくたびれた板には『高価買入中』と、お世辞にも達筆とは言えない文字が書かれていた。 他に店の名を知らせるような物は見当たらない。 「質屋か」 酔っ払いは大胆不敵。 冷やかしに入ってやる。 この腕時計がいくらになるのか聞いてみるか。 酔いざましくらいにはなるだろう。  
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