黒猫と酔っ払い

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「いらっしゃい」 髪が薄く、小柄で痩せた70代くらいの男性が新聞を読みながら頭の位置は動かさずに視線だけをこちらに向ける。 そう予想したが、見事に外れた。 『にゃあ』 出迎えたのは真っ黒で毛足の長い猫。 店内は細長く畳2枚を縦に繋いだほどの奥行きで、やはり細長いカウンターと壁に訳の分からない値段表。 それからその古臭く殺風景な場所にはあまり似合わないノートパソコンと、結構馴染んで見える猫1匹。 狭い店内の奥にドアがある。 トイレではなさそうだ。 奥に事務所か倉庫でもあるのか。 それにしても店番が黒猫1匹とは何とも不用心な店主だ。 「なあ?うわっ!」 ドアから視線を猫に戻そうと振り返った目の前に人間が現れた。 「いらっしゃい」 どこにいた!? 俺はかなり酔っているらしい。 人が入って来る気配さえ分からないとは。 「あ、いや、ここ質屋でしょ?」 何とも間抜けな質問だ。 「ここは買い取り専門です」 なるほど、たしかに商品は見当たらない。 それにしても、こんな若い女性が鑑定出来るのか? そう、70代のじいさんではなく、明らか20代前半だ。 高校生と言われれば、それでも納得できる。 「ところでお客様がご予約された金野様でしょうか?」 「え?いや違うけど....予約なんてしてないよ」 そう答えると彼女は不思議そうな顔を見せた。 「ご予約なしで?変ですね、ここはご予約をいただかないと入店出来ないんですが」 そう言われても困る。 「あ、いいよ帰るから」 元々冷やかしに入っただけ。 「申し訳ございません、入店された方はご予約済みということで、査定が終了しないとこちらのシステムがダウンしてしまいます。至急確認いたしますので、しばらくお待ち願えますか?」 しばらくか.... 「何分くらい?」 「手作業になりますので6時間ほど頂ければ」 ちょっと待った!  
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