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訳の分からないまま、更に言えば俺は夢の中的なこの流れ。
「予約した金野だが」
いきなり後ろから聞こえたで息を吸い込みすぎた。
「げほっ」
いやまて、おい、どこから入って来たんだ?
「いらっしゃい」
黒一色で身を包んだ彼女は、やはり愛想のかけらもない声を出す。
「これで少しまとまった金が欲しい」
わりと、いや、かなり身なりの良い男はそう言いながらケースに入った腕時計をカウンターに置いた。
「失礼します」
彼女の黒いマントから白い手袋が伸び、そのいかにも高級そうな時計を摘まんだ。
約5秒後、彼女の口から感情が聞き取れない機械音的な声が出た。
「500円」
え?何?高そうに見えてコピー?
「そ、それはロレックスだぞ!手に入れてから1度も使ってない!最低でも100、ここならもっとするはずだ!」
ここなら?
「ここでのこの時計の価値は500円です」
男の顔がみるみると真っ赤になる。
それからいかにも怒りを抑えながら絞り出す声。
「姉ちゃん、舐めてんのか?」
あ、この人ってそっち系なんだ?
それに対して全く怯む様子のない彼女は、やはり落ち着いた口調で話す。
「確かに他に持っていけばお客様の仰る値段がつくでしょうが、当店の査定は500円です。いかがなされますか?」
そう言われ、ついにキレる男。
「ざけんなっ!いいから金を出せっ!500万だっ!」
500万は高すぎだろ?
ていうか、酔いが覚めた。
今にも彼女に掴みかかろうとする男に対して、彼女は今までよりも更に抑揚のない声で告げた。
「ではお帰り下さい。またのご予約をお待ちいたします」
その言葉に男は完全に本物に変わる。
「金は勝手に貰う!てめえは薬漬けにして風呂屋に沈めてやる!」
そう言いながら男は右手を彼女に伸ばした。
と、彼女が微笑んだように見え、次の瞬間、店内から男の姿もロレックスも消えていた。
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