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「消え....た?」
「いえ、お帰りいただいただけです」
酔いは完全とは言えないが、ほぼシラフな俺。
でも頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「次のお客様がいらっしゃいましたね」
え?
「今晩は」
またかよっ!?
普通に心臓に悪い。
「いらっしゃいませ」
相変わらずな対応。
「あの、予約した浅野ですが....」
その女性客はこう言っては何だが、かなりくたびれているようだった。
年齢もはっきりと判断出来ない。
60代といった所か。
「それでは査定を始めます。品物は何でしょう?」
そう言われ、女性客が思い出したように握り締めた右手を開くと、そこには指輪らしき物が見えた。
「失礼します」
その何の宝石もついていない指輪を彼女は手に取り、今度はロレックスと違いじっくりと見ていた。
そして....
「1000万」
....
今、何て言った?
女性客もその返答に固まった。
「あ、あ、あの、今、何て....」
それに対し彼女は先程と何も変わらない口調で繰り返す。
「1000万」
1000万円?
その指輪が?
どう見てもただのシルバーだろ?
「その指輪って、何か名のある品なんですか?」
思わず口を挟むと女性客は首を横に振った。
「いえ、これは母の形見の結婚指輪で、決して高価な物ではありません」
やはり特別な物ではない。
だとすると、この査定は何なんだ?
「いかがなされますか?」
あくまでも事務的な対応だ。
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