第1章

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「実は、会社をクビになって……」 さっきまでの勢いはどこへやら。 うつむきながら話すその姿は、小動物の如く弱々しい。 「新卒で入って二十年、毎日真面目に勤めていたのに、突然のリストラですよ。 まだ妻には言えず、職安通いを続けていますが、それも雇用保険が切れる来月までが限度です。 はぁ、ほんとにどうしたらいいんでしょうね。 子供だって、まだまだこれからお金がかかるのに……」 ふ~ん、このオジサン、仕事を失ったわけね。 「どうしたらいい!か、そんなの簡単だ」 「え?」 「今すぐ家に帰って奥さんに事情話しな。 んでもって、これからを話し合うんだな」 「そんな、それが出来たら苦労は……」 「だまらっしゃい! 夫婦間に隠し事なんてしてもしかたねぇだろ? 健やかな時も、苦しい時も、夫婦であること誓ったんだろ? なら、あんた一人であ~だこ~だと悩んでても仕方あるめぇ!」 「でも、その結果、離婚にでもなったら……」 「なら仕方ねぇ。 それが話し合いの結果なら、素直に受け止めな。 もともと、あんたはリストラした会社が悪いとしか見てねぇみたいだが、もちろん雇用を維持できねぇ会社も悪い! が、厳しい事言うがよ。 あんたを切っても会社は困らないと思ったから切ったんだよ。 つまり、あんたの頑張りは、会社からみてまだまだだったってことだ」
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