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その奇妙な店に足を踏み入れた瞬間、私は早くも後悔し始めた。
昼間でもうす暗い店内は奥へ進めば進むほど暗く静かになってゆき、店員や客らしき人影もまるでなし。
おまけに掃除がされてないようで、私が歩く度に床のホコリが舞い上がって、アレルギー持ちの鼻をくすぐり、クシャミ連発。
「......あの、どなたかいらっしゃいませんかァ......」
不安があからさまに出たか細い声をかけてみるも、返答はなし。
それでいてどうもどこからか見られている視線を感じるのだ。
まるで暗く狭い場所に閉じ込められ、その様子を盗み見て悦に入るいじめっ子みたいでイヤになってくる。
これじゃ学校とそんなに変わらないじゃない......
私は......いじめられっ子だ。
何がきっかけになったのか、自分でもよくわからぬ内に除け者にされ、いつの間にか隔離の対象となってしまっていた。
ぶたれたり蹴られたりする肉体的ダメージを伴ういじめはされないが、集団無視や罵倒の言葉を並べた手紙の配布、机の上に無造作に置かれた幾つもの使用済みコンドーム......そういう精神的に疲弊させるいじめが私の神経を極限まで参らせていた。
本当に学校が辛くて仕方ない。
あの教室は私にとって、鉄格子のない牢獄と大差ない。
だから学校をサボる一歩を踏み出す事も、さほどのためらいはなかった。
これで私は今日一日自由の身、下らない事で頭を悩ます必要もない。
最も自由になった喜びの笑顔など、浮かぶ事はなかったけれど......
とはいえ、どこか行く当てがあるわけでもない。
こんな大それた行為をやらかした経験もないから、平日の時間帯に遊びに行く場所も思い当たらない。
それでいて制服姿は目立つ。
警察なんかに見つかって補導でもされようものなら、連中に格好の口実を与えてしまうし、家族にいらぬ心配をかけてしまう。
周囲の様子を警戒しながら人通りの少ない路地を選んであちこち進んでみるも、どうにも胸の不安が重たくて仕方ない。
どれくらい歩いた頃だろう。
トボトボと街中を散策していた私の目の前に現れたのが、この奇妙なお店だった。
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