序章-赤い記憶

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 確か俺が小学校四年生の時だったと思う。  その日は学校が終わってから妹と図書室で宿題を一緒にやっていた。家に帰っても父は仕事でいないし、母もパートで遅くなると朝忙しそうに準備しながら言っていた。別に家に一人で帰ってもよかったのだが、あのがらんとした静けさがなんとなく嫌いだった。 「ん~、宿題終わり~~! 」 妹の柊子(しゅうこ)が宿題の漢字ドリルを終わらせて大きく伸びをしている。 「じゃあ、本を読んでもうちょっと待ってて。俺もうちょいかかるから 」 「はいはーい 」 そう言うと柊子はトテトテと走り、『時間どろぼうとふしぎな旅行』という児童向け文学を持ってきた。ちらと目に入ったそのタイトルに心惹かれたが、ぐっと読みたい気持ちを我慢した。 数十分間の格闘の末、ようやく宿題を片づけた俺は柊子に声をかけた。 「柊子、宿題終わったから帰ろう。もうすぐ図書室も閉まっちゃうよ 」 「えー、まだ読み終わってないー 」 不満そうな表情をして頬を膨らませる。最近、小説を読み始めて少しは成長したなと感じていたが、こういうところはまだまだお子様だ。 「借りればいいじゃん、その本 」 「前の本まだ借りてるから、借りれないんだもん 」 「それなら、その本我慢するしかないな 」 「やだ! やだ! 」 筆箱をランドセルにしまいながら妹の顔をちらりと見ると、その目にはうっすらと涙が滲んでいた。 こりゃいかん。
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