序章-赤い記憶

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 俺は、はーっ、とため息をつき、自分のランドセルからまだ読みかけだった本を取り出して渋々返却した。 「ほら、貸して 」  そう言い、柊子から『時間どろぼうとふしぎな旅行』を受け取るとそれを改めてレンタルした。 「これでいいんだろ? 」 「うん!! ありがとう! 」  さっきの涙はどこへやら、今や満面の笑みで顔がほころんでいる。ここまで早い感情の切り替えは中々できるものではない。こいつは男を手玉に取るタイプになるだろうな、いやいやこのちんちくりんの柊子がお色気なんて出せないだろう、等と妹の遠い未来に思いを馳せる。自分のくだらない想像に、思わずぷっと吹き出してしまった。  帰り道、日はだいぶ傾き一面が茜色に染められている。俺と柊子でいつもの通学路を並んで歩く。買い物帰りの主婦らしき人物と何人かすれ違ったが、母はまだパート中だろう。2つの小さな影が寂しげに道路に伸びていた。 「ねえ、お兄ちゃん 」 「ん? 」  うつむきながら柊子は唐突に呼びかけてきた。 「うちってやっぱり貧乏なの? 」  俺は一瞬固まると、慌てて取り繕った。 「な、何だよ……急に!変なこと聞くなよな!」  確かにうちは相当に貧乏である。父は休日でさえも仕事に出かけ、いつも深夜に帰宅しているらしかった。どんな仕事をしているか知らなかったが、その多忙さと暮らし向きは全く比例せず、一家でつつましい生活を送っているのだった。
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