序章-赤い記憶

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「もしかして友達に嫌なこと言われたのか? 」  柊子はこくりと頷いた。 「柊子ちゃんの家にはゲーム無いから行ってもつまんないし、一緒に遊ばないって……」  これは中々難しい問題だ。家計の詳しい事情は分からないが普段の質素な食事内容を考えるとゲーム機を買う余裕は明らかにない。本も図書室で借りて、買うのは必要最低限のものだけにしている。  こうした事情から俺たち兄妹は学校内で孤立していることが多く、俺が柊子の相手をすることが日常となっていた。もちろん、数少ない友達と遊ぶこともあった。しかし、そんな時でも柊子の様子が気になってしまい、どこか負い目を感じるのだった。これが兄の性なのだろうか。  一方で柊子の方も、世間一般の妹よりは兄を慕ってくれているらしく、滅多に喧嘩しない仲のいい兄妹だった。  家に着くまで俺はずっと金で人の価値は決まらないだとか、お前は将来社長を手玉に取って玉の輿に乗れだとか言って慰めていた。しかし、柊子の心の傷は思ったより重症らしく、ずっとしょげたままだった。  そうこうしている間に俺たちが住んでいる団地に着いた。似たような建物が規則正しく並ぶ様は図書室の本棚を思わせる。一家の暮らす部屋が入る棟の前まで来ると、俺はあれ?と思った。  部屋に電気がついている。  一体誰だろう?父は今日も遅いだろうし、母も遅くなると朝言っていた。柊子も同じことに考えを巡らしているらしく一言 「泥棒? 」  と言った。  やばい。嫌な先入観がついてしまった。俺は変に身構えながら足早に階段を上がっていく。部屋の前に着き、一息入れてからドアノブを回す。鍵は開いている。  
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