序章-赤い記憶

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 恐る恐るドアを開けて中の様子を窺う。玄関から入ってすぐ左手が風呂とトイレ、右手がキッチン、正面のドアの先にリビング兼寝室という構造になっている。風呂トイレには人の気配はない。とすればリビングか。  柊子に「お前はここで待ってろよ 」と手短に言うと、抜き足差し足でリビングへと進んでいく。ドアの中央部はすりガラスになっていて向こうの様子がぼんやりと見て取れる。向こうでは大きな影が部屋の中を行き来している。 (やっぱり泥棒だ……! )  すると、すりガラスの影は大きくなり、ドアノブを握るガチャっという音がした。泥棒がこちら側に来ようとしているのだ。ここまで来たら後には引けない。イチかバチか俺が泥棒を捕まえるしかない。  ドアノブが回る。俺は身構える。開いたその瞬間 「泥棒ーーーー!! 」  と叫んで男のみぞおち目がけて飛びかかった。 「ぶべっ!? 」   小学四年生男子が不意をついて思い切り突撃してきたのだ。大の男と言っても後ろに吹っ飛び、踏んづけられたカエルのような声を出した。  恐怖から泥棒に全力でしがみついていたが、暴れる様子もない。ぎゅっと閉じていた目を薄く開けると、自分の下敷きとなった男が「いてて…… 」と呻いていた。その顔には見覚えがある。ていうか 「お父さん!? 」 「久しぶりの再会なのに、ずいぶん手荒だな…… 」 「早めに帰ってくるなら前もって言っといてよ! 」 「いやあ、ごめ…… 」    親子の久しぶりの対話を楽しむ間もなく、後ろから強烈な衝撃が襲ってきた。 「泥棒ーーーーーー!! 」  柊子が勘違いして飛びかかってきた。今度は二人して踏んづけられたカエルのような声を出した。
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