破顔の骸

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 間もなくして調停の談義が執り行われた。  時刻は酉の刻(午後六時)を過ぎようとしている頃。ちょうど彼方を見やれば山間の谷へ陽が落ちかけていて、緑の稜線を山吹の光で塗り替えているところだった。  この戦は結果として無効となり、形式的には引き分けで終わった。  一番手柄は言わずもがな忍見竜兵衛である。 「赤槍、次に(まみ)えるのはいつになる」  和睦を結んでいる最中、中須賀は不機嫌そうに尋ねた。竜兵衛は疲弊して一歩も歩けない状態でいるため輿(こし)に乗せられている。だが答える声音はいつもの調子で、けれどややかしこまっている。 「拙者は一介(いっかい)の兵卒ゆえ、(まつりごと)には明るくない。その時はその時よ」 「決裂を待つか」 「それまで生きておらねばな」  中須賀は満足そうに口をゆがめた。戦場では互いを殺すことだけを考えていた二人だが、いかんせん関わりは長い。 「此度の槍さばき、相変わらず見事であった。決着はまたの機会に預けよう」 「勝負お預け相分かった。貴殿の太刀筋もまこと天晴れだった。次やり合うのが楽しみじゃ」  そう言って竜兵衛は、大きく笑った。  二人の間に預けられた勝負、これで通算四八度目である。  忍見竜兵衛と中須賀甚八。その関わりはとても長い。  しかし決闘の勝敗、未だつかず。
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