睡蓮抄

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「なぁ、聞いたか?」 「何をだよ」 「あそこの湖には仙人が住んでるらしいぜ。何でもその湖の中央に大きなお屋敷と離れの東屋を建ててそこに一人で住んでるらしい。しかもその屋敷には出入り口ってのがなくって、その上湖を渡るための舟や橋もないから完全に閉ざされてるんだってよ」 「すげぇ嘘くせぇ。大体、俺もあの湖見に行ったことあるけどさ、そんな建物なんて見えなかったぞ」 「つったって、あそこの湖対岸見えねぇじゃん。霧も濃いし。お前が見に行った時だって霧出てただろ? もしかしたらあるのかもよ?」 「馬鹿なことばっかり抜かしてねぇでさっさと職探さねぇと、またかみさんにどやされるぞ」 「ねぇねぇ、聞いた? 湖に若い女の子の幽霊が出たんですって。何かきれいな珊瑚でできた髪飾りをつけた」 「えー? 私は怪我人って聞いたけど? あそこで溺れたんですって。あんなとこ誰も入らないから嘘だと思うんだけどね」 「仙人がいるって話は?」 「そんなの昔っからあるお伽噺じゃない。嘘嘘」 「あのねー、あの湖に行くと失くし物が見つかるんだって。ねぇ、私大切にしてたお人形さんなくしちゃったの。一緒について来てよー」 「そんなの無理だって。父ちゃんにあの湖には近づくなって言われてるだろ?」 「大哥(一番上のお兄ちゃん)だって、この前お父さんに内緒で行ってたもの」 「大哥はもう大人だろ。大体あの湖には怖ーい妖怪が出るんだぞ」 「そんなの嘘だってお隣のお兄ちゃんが言ってたよ」  そんな、湖が中国の山中にあった。     * * * *
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