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隼人、そして彼の両親が疑問を持った様子で美咲を見つめた。そこで、美咲はカバンの奥から学生証を取り出した。第五東南高校で過ごしていた頃の、美咲の姿の学生証を。
「私、前に話した美咲って人なの。色々やらかして、逃げるみたいに今の学校に来た。だから、変だと思ったんだよ」
美咲の言葉を聞き、隼人は、「やっぱり」と呟いた。
「お前、男にしては綺麗すぎんだもん。声だって、何か柔らかいし。でも、まさか本当に美咲だったとはな」
「愕然とした?」
「いや? 過去は過去だろ」
隼人が微笑んで答えると、自然と美咲も微笑んでいた。そして、「良かった」とため息交じりに呟く。
「隼人、今まで隠してきた私が言うのもなんだけど、何かあったんなら相談してほしい。私、それなりに信頼してたつもりだから、隼人のこと」
美咲の真っ直ぐな瞳を見ると、隼人は親の目を見て頷き、自ら事情を話し始めた。
「意外だって思うかもしれないけど、部活動の方でちょっと痛い目見ていてさ。何とか部活動辞めてお前と一緒に帰るようになってたのに、あいつ等まだしつこく追ってきてたんだ」
「何かされたの?」
「いや。でも、お前のこと、聞かされてた。お前が女なんじゃないかって、噂流してやるって。それをしないようにするには、転校しろって言われてさ」
えっ、と驚く美咲。どうして、自分が女であることを脅され、彼が転校しなくてはいけないのだろう。自己嫌悪すら覚えた。
「……それで、転校するの?」
「折角お前が見つけた新しい居場所だろ? それにさ、これ以上俺もボコられたりしたくないし」
隼人は明るく笑い飛ばした。言われてみれば、隼人が部活動をしていた時、何度か青あざを見たことがあった。だが、それは大概目に見えづらい場所にあり、部活動で負った傷とばかり思っていた。だが、それがいじめられてついた傷だったなんて。気づけない自分が悔しくなった。
――なぁ。
あの時の言葉の続きは、自分のこととばかり思っていた。だが、もしかしたら、彼は必死に堪えたのかもしれない。いや、きっと。
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