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一つの雫が落ちた。
それは、栗色の髪をした、可愛らしい女生徒の目から流れたものであった。
誰もいない音楽室の壁へと追い詰められた栗色の髪の女生徒は、「ごめんなさい、ごめんなさい」と、目の前にいる、黒髪の高圧的な女生徒に何度も詫びた。
それでも、黒髪の女生徒はその蔑むような視線を変えず、栗色の髪の女生徒の顎を掴んだ。
「死んだって許さない。あたしの幸次(こうじ)を盗ったんだから」
「ち、違うの、だから私は幸次くんのこと」
「黙れ!」
顎を掴んでいた手を彼女の首へと持っていき、力いっぱい締め付ける。その表情は悪魔に憑りつかれたように狂気に満ちており、もはや人と呼べるようなものでは無かった。
「死ね……死んじゃえよ……」
簡単に溢れ出る殺意。もがき苦しむ彼女が目を徐々に閉じていく。彼女の呼吸が無くなったその刹那、音楽室の扉が開いた。
「……美咲(みさき)、何してんの?」
美咲、黒髪の女生徒の名を口にしたのは、彼女の友人であった吉枝(よしえ)であった。吉枝は目の前にある光景を信用しがたく凝視していたが、やがて、二人のもとへと駆け寄って、美咲の手を強引に彼女から引きはがした。
「優芽(ゆめ)、優芽! 大丈夫!?」
栗色の髪の女生徒の名を何度も呼ぶ吉枝。サァッと現実に引き戻された美咲は、不安げに見つめていたが、大声で叫ぶ吉枝の声に、他の生徒達も徐々に集まって来た。
「何があったんだ?」
一人の男子生徒の質問に、意識を戻した優芽は、震える手でその人差し指を美咲に向ける。
「あの人が、私の首を絞めたの」
優芽の言葉に、多くの生徒がどよめく。涙目になって後ずさりする美咲に、たたみかけるように吉枝が言った。
「本当よ。私も見たもの」
信頼していた友人にさえ見捨てられた。我に返った美咲には、あまりにも冷たい現実だった。生徒達の反応も、同様に冷たいものであった。
「最低だな」
「信じられない」
「人殺し」
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