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そう言う人々の中に、美咲は見つけてしまった。愛する幸次を。幸次はその黒髪を揺らして真っ先に優芽のもとへ駆け寄り、その体を優しく抱きしめた。一番愛するその人が、一番嫌いな彼女を抱きしめている。胸が引き裂かれるような思いで、二人の姿を見つめた。
やがて、幸次は優芽を抱き上げ、生徒達を押しのけて去って行く。途中、美咲に冷徹な視線を向けて。
その瞬間、美咲の感情はバラバラに切り刻まれた。
――
「最低な女だろ?」
青年は言った。モデルのように背が高く、漆黒の髪を持った端正な顔立ちの青年が、隣の鼻ぺちゃで、そばかすのある、少々ふっくらとした顔立ちの青年へと答えを求めて見つめる。彼の隣にいた青年は、彼の話に笑い飛ばした。
「そいつはひでぇや。って、俺が言うなってな」
「いいや。そいつは酷かったよ。マジで」
「しゃーねーだろ? そこまでするってこたぁさぁ、その人にも思いつめる程の何かがあったってことさ」
「心広いなー隼人は」
青年は、ニコニコと笑う隼人(はやと)に言った。初めて彼に会った時は、顔に似合わずかっこいい名前の男だと思っていた。しかし彼のギャップも、彼を見つめる青年の美和男(びわお)と言う名前に比べれば何てことはない。この名前のお蔭で、転校後一発目の挨拶は大爆笑を掻っ攫ったのをふと思い出す。
「そうじゃねぇよ。さすがに人の首は絞めねーけど、俺でもすごく追い詰められたら、何するかは分かんねぇってことだよ。急に服脱ぎだすかもしれねーぜ?」
「誰もお前の裸なんて見たかねーよ」
二人はげらげらと笑いあう。そんな中でも、美和男は隼人の考えに感心していた。ひたすらに美咲を否定していた自分とは違い、彼は自分が同じ感情、立場になった場合を考えており、自分の意思をしっかりと持っている。彼のそんなところが実に爽快で、美和男は彼とつるむようになった。
「じゃあさ、仮にお前の彼女がそんなことしたら、お前は助けるのかよ。俺は無理だなー」
授業終わりの夕焼け空を窓際の席から眺め、美和男は言った。その視線の先には、噂の第五東南(だいごとうなん)高校がある。
厳しい美和男の質問に、「そいつは究極だなー!」と大きく伸びをして第五東南高校を見る。
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