一・少女Aの転校

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「どれだけ愛しているかにもよるけど、守りたいよ。だってさ、俺みたいな顔の奴を美女が好きになってくれてんだよ? その時点で有り難いのにさ、都合悪い時はサイナラなんて、俺がやったらマジでブスすぎるだろ?」 「俺がやったってブスだよ。でも、彼女守った瞬間、全校生徒ウン百人敵に回すんだぜ? 無理っしょ」 「ああ。でも、それで彼女守ったくらいで俺をいじめるような奴、それこそブスじゃね?」  ペンを回しながら、隼人は言う。隼人の言葉に不意打ちを喰らい、第五東南高校を見つめていた美和男が隼人を見る。あまりに予想に反した言葉だったようで、その後もただただ美和男は隼人の不細工な顔を見つめ続けた。これが数分続いたことで、隼人もウッと顔をしかめる。 「お前、俺への愛に目覚めたんじゃないよな」 「ざっけんな。……だったら、俺はお前の言うブスだなって。そう思って、言葉が出なかったんだよ」 「そっか」  胸に秘めていた言葉を発したことで、安堵した美和男はまた第五東南高校へ視線を戻す。先程見つめられて怪訝そうな顔をしていた隼人が、プッと笑ってそっぽを向く美和男の腕を人差し指でつつく。 「なんだよ」 「ううん。何でも」  両手で頬杖をつき、隼人は美和男を見る。口角は上がっているが、その目はどこか切ない。いつも笑顔の隼人からの悲しげな顔に、美和男が心配になって口を開く。 「なんだよ」 「なぁ、何でお前、そんなに美咲って子のこと知ってんの?」  そんなことか。美和男は視線を逸らして黙り込む。 自分自身でも、隼人にはつい心を許して話しすぎる癖があると感じていた。このまま話し込んでいては、いつか彼に気付かれてしまうのではないか。不安は何度もよぎったが、それでも話さざるを得なかった。心のどこかで、彼になら気付かれてもいい。いや、気付いてほしいと思っていたのかもしれない。 「なぁ」  心臓が少し走り始める。何の気ない顔をしながら、第五東南高校を見つめる。瞬きを一つした。  しかし、隼人は途端に席を立った。
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