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――
誰もいないアパートへと帰宅し、美和男は空の風呂に水を溜める。その間片手間で料理を作り、タイマー代わりにテレビ番組を見た。素人が様々な芸を行うバラエティ番組が十五分経過したところで、料理は完成。この料理を食べる頃には、風呂も丁度良い湯加減になっていることだろう。両手を合わせて美和男は野菜炒めを口に運んだ。
料理を食べ終え、十分間胃を休める。バラエティ番組出演者の笑い声をBGMにして、美和男は過去の出来事を思い返していた。そして、今日の隼人とのことも。
――なぁ、何でお前、そんなに美咲って子のこと知ってんの?
核心を突かれていた。
隼人は自分のことに気付いているだろう。自分が、美咲であると言うことに。
仮にも、人を殺そうとしたのだ。そんな人間が、全ての人間から許してもらえるはずなどなかった。幼い頃からの友人であった吉枝も、昔からずっと好きだった幸次も、教師も優芽の親御も、そして全生徒が。彼女を犯罪者の目で見て、忌み嫌った。
そんな彼女が、第五東南高校に長くいることは出来なかった。一か月もしないうちに両親から転校の案を出され、美咲もまた、それを二つ返事で了承した。良かった。これであの場所から逃げられる。それが、彼女の本心だった。
両親とは、どの高校へ行くか、真剣に話し合った。だが、彼女には一つの考えが既に浮かんでいた。両親の親戚が校長を務める、北方一等(きたがたいっとう)男子学園だ。
しかし、両親は彼女の案に戸惑っていた。北方一等学園は、女子が一人も通わない、いわゆる男子校だ。彼女の性別が、学園側が許してくれないだろうと。
両親からそれを聞かされるのは承知の上だった。だからこそ、彼女は言った。
「だったら、私を男として入れて欲しいの」
美咲の言葉に両親はさぞ驚いたが、美咲は真剣だった。
その翌日、美咲は長かった髪をバッサリと切り落とし、男物の衣服を買い、女物の衣服を全て自宅の物置にしまい込んだ。もともと顔が良いだけに、髪を切ったその姿は、女子が皆振り返りそうな程魅惑的な顔をした男性であった。腰ほどまで伸ばしていた髪を、こんなにも呆気なく切り落としてしまったのだ。彼女の思いは本物だ。両親も彼女の気持ちを受け止めると、北方一等男子学園の校長である叔父へ、彼女の転校を相談したのだった。
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