一・少女Aの転校

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 北方一等男子学園は、自宅から八駅分はある。毎日通うには、少々遠いので、美咲は学園の近くでアパートを借り、一人暮らしを始めた。  そして、天藤美咲(てんどうみさき)の名を、佐々木美和男(ささきびわお)に変え、学園に転入した。ちなみに、美和男と言う名は父命名だった。美咲はこの名を嫌だと言ったが、父曰く、「まずは名前でみんなの心を掴みなさい。友達になれば、名前なんて関係無くなるんだから」とのこと。実際、父の命名の甲斐あって、男子生徒達からの掴みは予想を反して上々だった。意外にも、男子生徒達は美咲こと美和男をすぐに受け入れてくれたのだ。  料理を食べ終え、美咲は風呂場へ移動した。  ちゃぽんと静かに湯に音を立て、ゆっくりと沈んでいく美咲。口元を湯につけながら思い浮かべたのは、幸次のことだった。  自分が壊れる程愛した幸次を盗った上に、その幸次をあっけなく捨てるとは。もはや呆れしか感じない。しかし、騙された幸次も幸次だし、奪われてしまった自分にも汚点があったのだ。あの頃の自分は、幸次を愛しすぎていた。それが、幸次にとっては重荷になっていたのかもしれない。  しばらく湯に浸かって考え込んでいたが、考え込むのは自分の悪い癖だと知っている。風呂上り以降は、幸次や優芽のことは考えないようにして、またテレビの世界に入り浸った。
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