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 とても、長いようで短い静寂は彼の言葉で裂かれる。 「そろそろ、気づきましたか?」  彼の口調は私の背筋をぞくりとさせた。まっすぐ向けていた視線を恐る恐る、彼の方へ向ける。彼は不気味に笑っていた。  私は急いで部長に電話しようとスマホを取り出す。画面を見た私は絶望した。どうやら、このあたりは圏外らしい。 「無駄ですよ。ここから先はずっと圏外ですから」  私を絶望の淵へと落とす言葉だった。イロが見えるようになったことを喜んでいる場合ではない。早くここから逃げなければ危険だと思った。でも、この密閉空間で逃げる場所などない。それに、こんな田舎の路線だと、電車がいつ次の駅に着くかもわからない。  私は機会を窺うことにした。 「やはり、柿崎さんは呑み込みが早いですね」  彼は腕を組み、勝ち誇ったような顔をしていた。 「どうして……」  私は彼に迫った。すると、彼はふんと鼻を鳴らしてから言った。 「会社の方針ですよ。会社に従順ではないはみ出しものをちゃんと教育しろというね。そういえば、私が渡した瓶に入った薬はちゃんと飲んでくれましたか?」  二日前にその薬を飲んでしまったことを思い出す。自分の胸元を押さえ、落ち着かせようとした。それでも高鳴った心臓は静まりそうになかった。 「その様子じゃあ飲んでくれたようですね。手間が省けて助かります。昨日、突然、部長にあなたのことを言われたものですから。あ、安心してください。服用して薬が効き始めるまでの潜伏期間の記憶とこの薬に関する記憶が消えるだけですから。多少の副作用でイロを認識できなくなったり、幻覚が見えたりしますが、それほど大きい影響はありませんし大丈夫です」  彼はいたって冷静な口調でそう言った。恐ろしく機械的にアナウンスされる言葉と身に覚えのある症状に血の気が引いた。
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