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「こんなの犯罪じゃない!」  私は叫ぶように言って、彼を睨みつけた。 「いやいや、何を言いますか。教育しなおすためですよ。そのために、極力いらない情報をなくすだけじゃないですか。それに根本的な記憶はなくならないですし、問題はないでしょう。会社への記憶を正しいものに上書きする。それでも、ダメならさらに消して、また上書きする。それだけの話です」  彼の言葉には、子どもが虫を無邪気に踏み潰すような残酷さがあった。とてもことを軽視している。とんでもない部下を持ってしまったものだ。 「まさか他のみんなも?」 「ええ、もちろん。あなたの友人の美咲さんも、多少お口が過ぎたのでこの前対象になりましたよ」  彼はさぞ当たり前のことのように言った。そうかだから、美咲は彼のことを覚えていなかったのか。それに、彼の周りにあまり人がいないのも頷ける。 「でも、柿崎さんには本当に驚かされました。私と初めて会ったときも記憶が消えていないじゃないかと思うほどだったので。まあ、二度も同じ手に引っかかったところを見ると、思い過ごしだったかもしれませんが」  信じていた者の裏切り。今までずっと抱え続けていた違和感と心の痛みはそれらを示していたのか。なんかちょっと可笑しく思えた。    イロが見えなくなった理由は薬の副作用か、気づくなんて無理だ。これは、一度目だろうが、二度目だろうが関係なく、私の性格からすれば何度も負のサイクルに乗ってしまうことだろう。
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