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私は頷き、その場を去った。ストレス――それがイロの見えなくなった原因なのだろうか。何かもっと重要なことを忘れている気がする。
子どもの声が聞こえた。自然と聞こえた方に視線がいく。お母さんお空綺麗だねと小さい女の子が言うと、母親はそうねと言い微笑んでいる。どこかでこの光景を見たことがある。でも、どこで見かけたのだろうか。思い出せない。
綺麗な空。私は空を見上げてみる。何が綺麗なのだろうか。もう、そんなことさえわからなくなっていた。視界から伝わる感情も忘れてしまった。冷たい風が頬を撫でる。いやにその風が心に染みた。
隣の席の美咲に肩を叩かれ、我に返る。
「佳奈! ちゃんとしなさいよ。ほれ、部長が呼んでいるんだから行ってきな」
私は小さく頷く。
「そうそう、今日は昼食一緒に食べるんだから、先にいかないでね」
「あっ、うん」
美咲は唯一、気軽に頼れる友人だ。精神科も美咲に言われて行くことにしたし、部長との関係が今以上に酷くならないのも、美咲のおかげだと思っている。それだけに、先に行かないでねと言わせてしまった自分が憎い。私はどこか人と違うのかもしれない。
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