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「確かにやってそう!」  私は思わず笑ってしまった。確かにありそうだ。あの部長なら、裏でヤクザでも政府関係者でも内通していそうで恐ろしい。  二人の噂話に耳を傾けながら、目をつぶる。そして、ゆっくりと目を開けた。イロは心が弾んでも見えなかった。 「そういえば、彼とはどうなった?」  美咲が前のめりになって、私に訊いてきた。  彼とは――? 「えっ、誰のこと?」  いつの間にか、溝口さんは美咲の隣に座っている。 「えーそんな勿体ぶらないでよ! 石目くんだよー石目くん」  溝口さんは「えーお似合いじゃない」と興奮している。  石目とは誰のことだろうか。また、私は大切な記憶をどこかに置いてきてしまったようだ。とりあえず、話を合わせなくてはいけない。 「あっ、彼なら何でもないよ」  二人の視線が怖い。次に訊かれる内容によっては、誤魔化しがきかない。 「本当に? 石目くんが会社をやめるって言って、飛び出したときに佳奈追いかけていかなかった? 会社中で噂されてたよ」  美咲の言葉に呼吸することすらも、忘れていた。私が名前も顔も思い出せない人を追いかけた? 人違いではないかと言いたかったが、これ以上なにか言えば、墓穴を掘りかねないので否定を繰り返した。 「そっか。次の日からどっちも平然とした顔で会社にいたからね。これは……と思ったんだけど思いすごしだったね。佳奈が何か隠してなければだけど」  私は否定しながら、無理やり笑顔を作った。彼の話になってからずっと地に足が付いていない感覚だった。  石目という人物は一体何者なのだろうか。  美咲に彼が会社を飛び出したのはいつかと訊くと、一週間ほど前だと答えた。
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