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 私と彼は、近くの駅まで一緒に歩いて、別れた。石目という男は私の思っていた人物とは全く違った。スーツを着ていなければ、学生と間違われてもおかしくないほど、顔は幼い。時折、混ざる方言も私の耳を楽しませてくれた。とんでもないほどよくできた部下という印象だった。  それから、度々、私と彼は一緒に帰るようになった。もちろん、偶然という状況を利用して彼と一緒に帰る。  もう、私の見える世界に明るい光は見つけられないと諦めていた。でも、彼を知って、彼を見るようになってから、私の世界は明るさを取り戻したように感じた。もちろん、イロが見えるようになったわけではない。暗い中でも、光は灯せる。そのことを知っただけだ。 「だから、赤で書いてあるところを見ろって言っただろ? どうしてそれが分からないんだ!」  怒鳴られると部長の唾が飛んできて、すごく不快だ。赤とは何イロだろうか。ずいぶんとその色を見ていない。微かに残るイロの記憶すらも消えていた。 「柿崎、お前を信頼しているから言っているんだぞ。この頃どうしたんだ? 前までの君はどこへいったんだ」  珍しく部長の声は諭すように優しかった。果たして、私はどこへ行ってしまったのだろうか。気づいたら、イロが見えなくなっていて、記憶もちょっとあやふやで、今はどうにか踏ん張って立っている感じだ。    ふと、石目の席に目がいく。そういえば、彼の周りにはいつも人がいない気がする。彼ばかりを見つめていたから気付かなかった。彼が会社にいる間、誰とも話していないことに。それはまるで、彼が誰にも認識されていないような。 「よそ見ばっかりするな! 今は俺が話してるんだ」 「はい、すみませんでした」 「もういい! 戻ってこれやれ!」  本当に謝ってばかりだ。別に大した悪いとも思っていないのに頭を下げないといけない。部長と話すと、いつも暗いものを見つける。オフィスの床の隅に溜まったゴミや汚れ、そして、周りからの哀れみの視線。おそらく、イロが見えていても真っ黒だ。  一層のこと、私の目が見えなくなってしまえばいいのにと思った。
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