1人が本棚に入れています
本棚に追加
男性はソファーに背を預ける。
「おかしいなぁ。
いつも通っている道なのに、今までこんな店見たことがないよな。
しかも、なんか呼ばれた気がして思わず扉をあけてしまったけれど。
こんなに中、広い場所だったか?」
独り言を呟く。
しばらくすると、コーヒーの芳ばしい薫りが漂ってきた。
燕尾服を着た、先程とは別の店員が、カップが一つ乗った銀のトレーを左の掌にのせ運んでくる。
静かに男性の前のテーブルにコーヒーのカップがおかれる。
「当店自慢のブレンドコーヒーでございます」
「ああ、ありがとう」
男性は礼を言い、さっそくコーヒーカップを手に取り、一口飲む。
芳ばしい薫りとほどよい苦味が口の中に広がる。
「美味い!」
思わず大きな声をだしてしまった。
「それはよろしゅうございました」
店長が手に白いファイルを持って近づいてきた。
「お向かいの席、失礼致します」
店長はにこやかに微笑むと、優雅な動作で一人がけのソファーに座った。
「今最もこの国で人気のある、歌手であり俳優の、冴木 健様でお間違いはないでしょうか?」
「あっ、ああ」
男性はサングラスをはずす。
整った顔立ちに、すっきりとした切れ長の目、高い鼻。
50歳に間もなくなるというのに、シワひとつない肌はつやややかで、男性とは思えぬキメの細かさ。
老若男女問わず、女性からも男性からも人気のアーティスト。
最初のコメントを投稿しよう!