幻の店

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「冴木様、まずはおめでとうございます」 店長はにこやかに言う。 「………なにが、おめでとう、なんだ?」 困惑して冴木が問い返す。 「さきほども申し上げましたとおり、この店は、選ばれた者しか来られない店でございます。 冴木様はこの度、魂の格が上がり、神へと昇格する資格を得られました」 「はっ? 神? 一体何を言っているんだ? これは手のこんだ新手の悪徳商法かなにかか?」 「いえいえ、とんでもございません。 古よりある伝統の、正統なる神の資格でございます」 大真面目な顔で告げる店長を、呆れた顔で見ていた冴木は無言で立ち上がる。 「あああっ、お待ちください! 冴木様」 店長が慌てて冴木の腕を掴む。 「離してくれ」 「冴木様! どうか気をお静めください。 冴木様はもう、元の世界に戻ることはできません!」 「はっ? そんなバカな事があるわけないだろう。 俺は帰る」 冴木は店長の手を振り払い、先ほどきた通路を歩き出し、ピタリと立ち止まる。 通路の先にあったのは壁だった。
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