幻の店

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冴木は前を遮る壁に近づき、手をあてる。 大理石でできた壁は冷たさのみを冴木に伝えてくる。 「なんなんだ、これは? ドッキリか?」 「いいえ。正真正銘の大理石の壁でございます。 冴木様がいらした場所とこの店は、もう繋がりはございません」 後ろに立った店長が静かに告げる。 「冗談じゃない! 俺は帰るっ! 明日から新しいドラマの撮影があるんだ。 どこでもいいから出口に案内しろ」 「冴木様はもう戻ることは叶わないのですよ。 貴方は神になる資格を得られたのです。 この店に入られた時点で、貴方の人としての道は終ったのです」 真剣な眼差しの店長を睨み付けていた冴木の手が震える。 「……………マジかよ。 長年俳優をやってきたんだ。 相手が嘘をついているのか、演技しているのかくらい、わかる」 冴木は大理石の壁にもたれると、ズルズルとお尻から落ちていく。 壁にもたれ、座り込んだ冴木は両手で頭を抱える。 「俺はまだまだやりたいことが、いっぱいあったんだ………」
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