1人が本棚に入れています
本棚に追加
冴木は前を遮る壁に近づき、手をあてる。
大理石でできた壁は冷たさのみを冴木に伝えてくる。
「なんなんだ、これは?
ドッキリか?」
「いいえ。正真正銘の大理石の壁でございます。
冴木様がいらした場所とこの店は、もう繋がりはございません」
後ろに立った店長が静かに告げる。
「冗談じゃない! 俺は帰るっ!
明日から新しいドラマの撮影があるんだ。
どこでもいいから出口に案内しろ」
「冴木様はもう戻ることは叶わないのですよ。
貴方は神になる資格を得られたのです。
この店に入られた時点で、貴方の人としての道は終ったのです」
真剣な眼差しの店長を睨み付けていた冴木の手が震える。
「……………マジかよ。
長年俳優をやってきたんだ。
相手が嘘をついているのか、演技しているのかくらい、わかる」
冴木は大理石の壁にもたれると、ズルズルとお尻から落ちていく。
壁にもたれ、座り込んだ冴木は両手で頭を抱える。
「俺はまだまだやりたいことが、いっぱいあったんだ………」
最初のコメントを投稿しよう!