3章 魔物の宴

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・ 「今日のジュースには五十匹以上の蜂を使ってございます」 にっこり笑って手の平にへばり付いた蜂を指先で抓み取ると、モーリスはそれを言葉も無く呆然とするルナのジュースの中にポチャン…と落とす。 「蜂蜜搾りは俊敏さが鍛えられて一石二鳥でございます」 モーリスは満足気な笑顔を浮かべていた… ◇◇◇ ワインレッドのお湯がゆらりと揺れ、水面に移った美形の姿を歪めた… 先程貪りついた淑女のメスの香りが白く美しい顔に染み付き漂う。 グレイはその香りを落とすように口の周りを拭い、瞳を閉じた。 黒いバスタブのヘリに後頭部を預け、首を仰ぐ。 吸血したばかりの淑女の血の味を思い出したように、のけ反ったグレイの喉元がゴクリとなった。 あと七日… それまでは別の女で紛らわす他はない… グレイは湯気の立ち上る先の高い天井を見上げ、遠い眼差しを返した。 そう。あと七日もすればまた、ルナの乙女としての証しが身体から溢れる。 そこから自然と流れるものなら無理に吸血せずとも存分にあの極上の鮮血を味わえるのだ。 過度の吸血行為でルナが命を落とし掛けたあの日以来、グレイはルナの肌に牙を立てることは無かった。
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