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「旦那様。お着替えを置いておきます」
「ああ」
控え目なノックの音が響く。
浴室の向こう側からの声にグレイは短く応えた。
「今度はこちらに御婦人方がお見えになることになっておりますが、晩餐のメニューは如何致しましょう?」
「女達の好みの物を片っ端から揃えておけ。おだててご機嫌窺いをするのも面倒だからな」
「かしこまりました…」
返事を返し、立ち去るモーリスの気配を確認すると、グレイはバスタブから立ち上がった。
貴族としての流儀。
定期的に開かれる各、邸での晩餐会。
招待を受ければこちら側も勿論、同じように招待せねばならない。
退屈な貴族の御婦人達を如何にして楽しませるか。
それも紳士として当然のこと。
そして、クロスフォード邸で開かれるこの晩餐会はグレイが統べる魔物、吸血鬼達にとってなくてはならない極上のディナーショーでもあった…
立ち上がった青白いグレイの肌を紅いお湯が血のように滴り落ちる。
白いながらも程良く筋肉がついた引き締まった躰。
美しい魔物
ヴァンパイア──
細身ながらその逞しい肩の下からは、黒く大きな翼がはえていた…
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