Lento

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「うーん、ここでいいか。」 私は黙って頷くしかできなくて、目の前の見積書に目を落としていた。 ーーこんな金額……頭がクラクラする。 目の前の担当者は自信を持った顔で笑っていた。それには目もくれず、婚約者の伸一さんとご両親が頷きあう。 私たちは1年後に執り行う結婚式の会場を予約しに来たのだ。いくつか候補を周り、最後にここにやってきた。 ーーいくら全部出してもらうからって……ほんとにいいのかな 担当者がこちらの反応を確認し、すぐに契約書が目の前に出された。迷うことなく伸一さんはサインをした。 今日すべきことをとりあえず終えて、私たちはホテルのロビーに戻ってきた。 「久々に食事でもいくか。澪さんも一緒に。」 お父様がこちらを見て微笑む。私は伸一さんに伺うような目線を送る。 「あぁ、父さん。今日、澪は予定があるからここからは別行動だよ。」 「すみません……せっかく誘っていただいたのに。」 私が頭をさげると、お母様が穏やかに笑った。 「いいのよ。楽しんできてね。」 私はもう一度頭を下げてホテルを出た。駅まで早足で歩き、電車に飛び乗る。メンバーに今日の予定は伝えてあったが、私は少しでも早く皆と合流したかった。
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