Lento

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「こんにちはー!」 スタジオの入り口で声をかける。顔を上げたオーナーさんが、笑顔で挨拶を返してくれた。 「おぅ。今日は3番の部屋だよ。いってらっしゃい。」 「はーい!」 廊下に拡がるタバコの煙を避けながらドアを開ける。ちょうど合わせている最中だったようで、軽快なリズムが響いていた。 私に気付いて皆が演奏を止める。 「おー、おかえり!」 ドラムの弘樹が笑ってこちらを見た。 「場所、どこに決まったの?」 ギターの和也が興味津々な顔で私に尋ねる。 「あー……S駅前のホテル。」 私が強張った顔で答えると、ベースの貴人が苦笑いした。 「まじかよ。本気だったんだ、お前の婚約者。」 「そんな風に言わないでよ。みんな当日は来てね。今から不安だから。」
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