救い

ママは雨の日には決まって
私を椅子に縛りつけて
ネジを太腿の内側や
足の裏に…

叫び声は雨音と椎名林檎のハスキーボイスにかき消され
助けにくる人がいないことは
とっくにわかっている

ネジの冷たい感触
ママのうめき声
皮膚が破けて異物が中に入ってくる
入ってくる
入ってくる
入ってくる

そして、私の頭には
優しかった頃のパパの顔が浮かぶ

ママの泣き声が椎名林檎のハスキーボイスと混ざる
赤いフローリングの上に
涙のしずくが降ってきて
いびつな円を描いていく

戒めを解かれたワタシは
埋め込まれた金属で
ガリガリと床を削りながら
歩いていく

外は滝のような雨
アスファルトに
叩きつけられる
雫の悪臭が
ワタシに

入ってくる
入ってくる
入って…

大好きだったパパの工具箱
真っ赤な塗装が
所々剥げて
赤茶色に錆びている

玄関には
パパのゴルフクラブが
置いてあるのは
わかっている

ワタシには…

傘立てから音を立てぬようアイアンを引き抜く
リビングに戻ると
ママは相変わらず
フローリングを
いびつな円で
汚している

汚らわしい

今の
ワタシには
捨てられたメス犬の成れの果て

生ゴミのような
異臭を放つ
醜い死に損ないのメス

腕を振り上げる
生ゴミが驚 いて声を上げる
そのまま振り下ろす

それがワタシの
“救い”
だから