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私に訪れた15回目の春――。
それは、私とあいつの奇想天外な物語の幕開けだった――。
***
窓から中庭を見下ろす、校舎三階の廊下。
風が通り抜けるたびに花を散らす桜の木を眺めながら、朱音は心地よい春の日ざしに身をゆだねていた。
「おはよ、月城さん」
ふり返ると、鞄をたずさえたクラスメイトの女子が二人、朱音に笑顔を見せていた。
「おはよう」
と、朱音もほほ笑む。
そのうちの一人が、となりの窓から同じように中庭を覗きこむ。
「中庭の桜、まだ咲いてたんだ」
「うん」
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私の名前は月城(つきしろ)朱音(あかね)。
この春に高校へ進学したばかりの15歳、高校1年生だ。
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「もう枯れてるもんだと思ってた」
「勉強忙しくて見てる余裕ないもんね」
と、クラスの女子達が顔を見合わせる。
「月城さん、余裕あるんだ」
「そうでもないよ」
朱音は苦笑いする。
***
四月――。
このように、編成されて間もない我ら1年生は、油断してしまいがちなこの季節にあって、油断できない日々を送っている。
***
「でもさ、勉強大変だけど、ここ来てよかったよね」
「分かる。カッコいいよねえ~。今どきモデルにだっていないもん」
「そんなんと同クラとか、マジヤバイよね」
キャッキャと笑いあう女子達。
そんな彼女達をほほ笑ましく見ていると、一人がふり向く。
「月城さんも、そう思わない?」
***
が、私の近くには、そんな中であっても注目を集めている男がいる――。
***
「え?」
急に話題をふられ、すこし困惑する朱音。
そのとき、廊下の奥から女子生徒達の黄色い声がかすかに聞こえてきた。
「来た!」
と、声のするほうへふり返るなり、朱音に話しかけてきた二人のクラスメイトは一緒になって駆け出して行った。
思いがけず置いて行かれる朱音。
――おいおい、聞いといてスルーかい。……まあいいけどさ。
朱音は駆けて行くクラスメイトの背中ごしに、数人の女子生徒に囲まれながらこちらへ向かって来る、一人の男子生徒を見やる。
間もなく、群れにまぎれたクラスメイトが、思慕(しぼ)の眼差しでその顔を見上げた。
「おはよう、冬馬くん!」
「おはよう」
男子生徒は中性的な甘いマスクで、ニッコリとほほ笑んだ。
***
久遠(くおん)冬馬(とうま)だ。
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