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やがでチャイムが鳴りホームルームが始まるころになると、冬馬を囲んでいた女子生徒達は、おのずとばらけて行った。
朱音と冬馬が在籍する、1年A組の教室。
教壇に立つ担任教師を前に、二人をふくむ数十名の生徒が席についている。
「あ~、今日の日直は高松と月城だな。5時限目の物理は科学室を使うようだから、事前に道具を取りに職員室へ来いとのことだ」
ホームルーム。点呼を終えた担任教師が、手もとのメモ用紙に視線を落として、物理教師の言づてを読み上げる。
朱音と隣の席の男子生徒が「「はい」」と声をそろえた。
「それじゃあホームルームは終わりだ。このまま授業始めるぞ。現国の教科書出せ」
と言うと、教師が自分の教科書を取り出して、担任から現代国語の教師へスイッチを切りかえた。
「それじゃあ、教科書の20ページから――」
***
私達の通う県立櫻川中央高等学校は、県でも有名な進学校とあって、授業はなかなかにハイスピードだ。
教科によっては、教科書足りなくなるんじゃないか? と思えるほど早く進むものや、予習前提で進行するものもあって、下手をすると置いてきぼりをくらいかねない。
私をふくめ1年生は全員、まずこのスピードに慣れるところから始まるのだから、桜を見ている余裕がないのも、うなずける。
ともすれば、中学ののほほんとした義務教育が恋しくなる半面、よくそれでこの学校に来られたなと思う。
***
――――
――勉強しなきゃダメかなあ……。
時はすぎて昼休み。
朱音は手作り弁当をたずさえて、中庭を歩いていた。
中央の花壇に植えられた桜の木をはさんで点在するベンチに、ひとりを楽しむ生徒達が数人腰かけている。
ときおり、生徒達のスポーツを楽しむ声が、校庭のほうから校舎を飛びこえて、かすかに聞こえて来る。
中庭をぐるりと見わたす朱音。
ひとりで本に書きこみをしている女子生徒を見つけると、隣に腰を下ろした。
「お待たせ、みなみん」
「もう高校生だし、その呼び方やめない?」
みなみは手を休めて、仏頂面を朱音に向ける。
***
彼女は栗林(くりばやし)みなみ。
同じく15歳の、高校1年生。
***
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