◇秘密のバンパイア・フレンド◇

5/44
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「いいじゃん別に。次は何の翻訳?」  朱音はみなみの手もとを覗きこむ。  びっちりと印字された英文の下に、手書きの翻訳文。 「ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』」 「うわあ、辛気くっさあ~」 「うっさいな」  みなみは本にしおりをはさむと、かたらわに置いておいた弁当と取りかえる。  朱音は、は~、と感心して見せて、 「将来がハッキリしてるヤツっていいねえ~」  と、口をとがらせた。 ***  彼女とは保育園のころからの馴染みだ。   将来の夢は翻訳家だそうで、高校に入ってからは、こうして翻訳作業をしている。  中学から一緒に来たのは、彼女一人だけだ。 *** 「それにしても遅かったね」  と、みなみ。  朱音は膝の上であけた弁当から、おかずを一つ選んで口に入れる。 「北村先生の話長くってさ。海外旅行の自慢話とか、いらねえっつの」 「ああ、4限目英語だったんだ。それ、私も聞いた」 「それで、そっちのクラスはもう慣れた?」 「それ本気で言ってる?」 「さあ?」 「別に苦手ってワケじゃないよ。ただ面倒なだけ」 ***  彼女は大の人見知りだ。  それは保育園のときから変わらずで、自分から仲よくしようとかは絶対に考えない。  かく言う私も友好関係をきずくのに苦労させられた。 *** ――またまたご冗談を。  朱音はその意地を張る姿をせせら笑う。  すると、仏頂面だったみなみに表情が宿る。 「またそうやって、人を小バカにするような態度取って!」 「だって楽しいんだもん」 「言ったなあ!」  ムキになったみなみは、朱音の両肩を鷲づかみにして力いっぱいゆさぶる。  朱音は頭を前後左右にゆすられながら、ケラケラと笑った。 ***  でも、一度心を開けば、おもしろい子だと分かる。  私のただ一人の親友だ。 *** ――が、これはちょっとマズいぞ?  止まらないゆさぶりに、間もなく顔を青くする朱音。 「うぷっ」  両手で口をおさえると、ギョッとしたみなみが手を放す。 「げっ! ちょ、やめて! 謝るから! お願いだから、吐かないでえ!」  二人の談笑は、周りに迷惑をかけつつも、その後もしばらく続いた。 ***  なお、保育園のころからクラスが一緒というのが小さな自慢だったが、高校に入ってついにクラスが分かれてしまい、地味に悲しい。 ***
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!