◇秘密のバンパイア・フレンド◇

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「ごちそうさま」  と、朱音は空になった弁当箱をもとあったように片づけると、桜の木の間に立てられた時計塔に目をやる。 ――もうこんな時間か。 「私、そろそろ行くね」 「もう?」  まだ食べ終わっていないみなみが、朱音を見やる。 「今日日直なんだ。次の授業の準備頼まれちゃっててさ。ごめんね」 「そうなんだ」  すこし寂しげな、みなみ。 「じゃ、またね」 「うん」  朱音はみなみと手をふり合うと、名残惜しい気持ちをおさえて中庭を後にした。  ――――  数分後、朱音は一人で職員室の前に立っていた。 ――どこ探してもいないんだもんなあ……。ふざけんなよな、高松の野郎。ろくに話したことないけど、あとでぶん殴ってやっかんな!  そんなことを考えながら、職員室の引き戸をノックして、開ける。 「失礼します。1年A組の月城です。西内先生、5時限目の物理の教材を取りに来ました」 「おう、それだ。科学室に持ってっといてくれ」  自分のデスクでカップ麺をすすっていた物理教師が、片手間にテーブルの上を指さす。  教材が山ほど入った大きな段ボール箱。 ――げっ。これを私に持てというのか……。 「大丈夫か?」 「へ、平気です」 ――なら自分で持ってってくれよ!  朱音はそれを抱えるように持ち上げると、足もとに注意しながら、職員室を出ていった。 「じゃ、よろしく」 「失礼……、しました……」 ――くそう、絶対だ。絶対にぶん殴ってやる……!  ―――― ――重い……。  段ボール箱を抱えて、化学室を目指す朱音。  廊下を進んだ先の角から、珍しくひとりの冬馬が現れた。 ――あ、久遠冬馬。……ひとり?  すると、冬馬も朱音の存在に気づく。  目が合い、自然とお互いの足が止まる。 「やあ」 「どうも」  気安い冬馬に対し、すこし他人行儀な朱音。 「…………」  朱音をじっと見つめる冬馬。 「…………」  その視線に耐えかね、目を泳がせる朱音。 ――自分から声かけて来といてだんまりかよ! ……気まずい。とっとと科学室行こう。
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