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科学室までの道すがら、肩をならべて歩く朱音と冬馬。
――同じクラスになってからおよそ半月。あまり、と言うかほとんど話したことないから、この状況は緊張する……。
冬馬を一べつする朱音。
目測で、その身長差はおよそ20センチ。
ななめ45度下から覗き見る冬馬の横顔は、文句の言いようがない。
――考えてみれば、彼の顔をこんな近くで見たのも初めてだ。見れば見るほどキレイな顔。ちょっと海外の血が混ざってそうな感じもするけど、どうなんだろ。そう言えば、あの噂って本当なんだろうか。こういうの、何かミーハーっぽくて好きじゃないんだけど、気にならないと言ったら嘘だし。
朱音は、ごくり、と喉を鳴らす。
「……ねえ、久遠くん」
「冬馬でいいよ」
――そう言えばみんなも名前で呼んでたっけ。男子を名前で呼ぶなんて初めてだ。何かすごい違和感。みんな、よく平然と呼べるよなあ。
「……じゃあ、と、冬馬くん」
「何?」
「どうしてこの学校に来たの?」
「ええ?」
冬馬の足が思わず止まる。
「あ、ああ、べつに、変な意味じゃないの」
朱音も足を止めて、とっさに頭を左右にふる。
「久遠家って、たしかすごい名家でしょ? 勝手なイメージだけど、そういう生まれの人って私立とか行くものだと思ってたから。噂じゃ、桐生院学園にいたって聞くし……」
「…………」
***
そう、彼の家……、つまり“久遠家”と言えば、このあたりじゃ有名な名家なのだ。
山の中にあるエッチなホテルみたいな西洋風の豪邸は、ちょっとした名物物件ですらある。
とにもかくもこの男の家は超がつく金持ちであり、この男は生粋のお坊ちゃまなのだ。
が――。
***
――いくらなんでも、これはダメだろ。
「ごめん、今のなし。不躾(ぶしつけ)すぎだよね」
「そんな気にすることないよ」
冬馬は優しい笑顔でゆっくり首をふると、ゆっくり歩き始める。
朱音は冬馬の顔色をうかがいながら、横で足なみをそろえた。
「べつに隠すようなことじゃないしね。中学まで桐生院(あっち)にいたのは本当。……両親や兄さんはそのまま高等部に上がることを望んでたんだけど、慣れるならこっちの方がいいと思って、祖父に説得してもらったんだ」
「慣れる?」
「ん? ああ、気にしないで」
――そこは教えてくれないのか。何だろう。気にないでと言われると気になる。
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