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「どこに置けばいいの?」
「こっち」
科学室に到着すると、冬馬は朱音にうながされるまま、教師用の理科用実験台に段ボール箱を置いた。
「ありがと」
冬馬が返事代わりにニコッとほほ笑む。
「あとは私がやるから、もどっていいよ」
「手伝うよ」
「平気。中のもの、ならべとくだけだから」
「そう。じゃあ、ここにいるから、手伝ってほしいことがあったら言って」
冬馬は生徒用の実験台の椅子に腰を下ろす。
「う……、うん」
――何だ? どういうつもり?
朱音は教師用の実験台の前に立つと、段ボール箱から教材を取り出して、机にならべる。
それは、積み木や木製の車のおもちゃなど、とても高校の授業で使いそうにないものばかり。
――何だこれ?
朱音は「?」を浮かべながら、次々取り出していく。
その様子を黙って見守っていた冬馬が、ぽつりとつぶやく。
「こうして見てると、月城さんが先生になったみたいだ」
「何それ」
と、朱音は苦笑いを浮かべる。
「考えてみれば僕達ってさ、今日までまともに話したことなかったよね」
「そうだね」
「さっきの話の続きなんだけど、君はどうしてここへ?」
「私はとくに理由なんてないよ。進学校行っとけばとりあえず安心かなって思って、その中で近いところ選んだだけ」
「へえ。すごく余裕って感じ。月城さん頭いいんだ」
「来てみて後悔したけどね。てか、冬馬くんに“頭いい”とか言われると、もはや嫌味だね」
冬馬は、ふふっと笑う。
「冬馬くんって大変だよね。いつも女子や男子に構われてさ。ひとりでいるところなんて、初めて見たかも」
「うん。毎回逃げまわるのに苦労するよ。やっとひとりになったと思ったら、先輩が部活の勧誘来たりもするし」
「しないの? 冬馬くん運動も得意じゃん」
「僕の家、門限みたいなのあるから」
「門限……」
――名家パねえ……。
「その点、今日は月城さんのおかげでゆっくりできてるよ。感謝しなくちゃね」
朱音は、はははっと苦笑する。
「まあ、今はしょうがない時期なんじゃない? 冬馬くん、いろいろ目立つしさ。でも、そういうのって一過性のものだから、そのうち落ちつくよ」
「僕もそれを望むよ」
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