あおば通の裏通り

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「ここはね、天国の待合室みたいな場所なの。次にいくための待ち時間に、誰かと交流できる。そんな店なの。上手くいえないけどそんな感じかな」  にこりと笑って青年は続ける。 「でも、生きてるニンゲンが呼ばれることって滅多にないんだよ。この子、よっぽどお兄さんのことが好きだったんだね」  嬉しそうに頭をぐいぐいと押し付けてくる仕草。いつも痛いからやめろといってもきいた試しがなかったが、その仕草をしていたのが遠い遠い昔のようで本当に懐かしい。 「撫でてあげたら? 大丈夫、触れるよ」  青年の言葉に恐る恐る手を伸ばす。姿はよく見るとうっすらと透けているような気もするが、確かにそこには感触があった。生前と変わらぬ毛並と、温かさが手のひらに伝わってきて、これが死んでいるものだなんて、ましてや幽霊だなんて到底思えなかった。 「入店時間はこの砂時計が落ちきるまで。この子がここにいられる時間は限られているけど、その間は一緒にいられるよお兄さん」  ゴロゴロと嬉しそうに喉をならすクロを見て、俺は涙を堪えるのに必死だった。 「さぁ、お待たせしました。どうぞゆっくりしてらしてくださいね」  マスターが料理を運んできてくれる。  ことりとおかれた皿には見た目も香りも美味しそうなクラブハウスサンド。  しっかりと焼かれたパンにカリカリに焼かれたベーコン、しっとりだが厚めに盛られた鶏肉、新鮮なトマトとレタスにチーズも挟まれている。 「さっ、お兄さん、あったかいうちに食べてみてよ!」  複雑な気持ちだというのに、入れたてのカフェオレの香りを嗅いでいたらなんだか食欲が沸いてくるから不思議だ。  カウンターに座りなおすと、クロがぴょんっとテーブルに飛び乗ってくる。 「こら、大人しく待ってろよ」 「いいですよそのままお気になさらず。クロさんもご一緒にお食事してらしてくださいな」  マスターの心遣いに感謝だ。 「それはそれとして、クロさんはどちらをお召し上がりますか?」  マスターの手には結構な種類の猫用食品が握られていた。  それを見ていたら、なんだかおかしくなって笑みがこぼれた。
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