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「おかしい」
その後も何日か待ち合わせに使っているうちにすっかり常連になった店から、いまだに入れずにいる黒猫珈琲店を見つめて気がついた。
ほとんどといっていいほど、人が出てくるところを見たことがない。
日に何人か入るところは見かけることはあるのだが、店を出るところを一度も見たことがないのだ。
ここからは店へと続く階段は正面に見えるが、入口や中までは見ることができない。
「裏から出てるんじゃねーの?」
友人はそういうが、裏は空き地で出口は見当たらない。隣接したビルとは完全に分かれているが、人が通れそうなほどの隙間はない。
仮に、その隙間にドアがあって互いのビルを行き来できるようになっていたとしても、左はカフェ、右はファミレスだ。俺なら絶対繋げたくない。
その後も変わらずに人は入るが出てこなかった。
俄然気になりだした俺は、親の仕事を手伝って小遣いを稼ぎ、ついにビルの前に立っていた。
意気込んだはいいものの、いざとなると結構緊張するもんだ。
「しまった……早すぎたか?」
今日こそはと勇気を振り絞って入ってみようと意気込んで来たものの、店の看板が出ていないことに気付く。
(そういえばいつも来たときには開いてたから調べてなかったな……)
思えば向かいのカフェから見ていたとはいえ、いつも昼近くからしか来ていなかったことをすっかり忘れていた。
(まだ10時前か)
普段表に出ている立て看板も見当たらない。
ビルのフロア案内に営業時間が書いていないかとおそるおそる近付いたその時。
勢いよく何かが崩れる音がビル内に響き渡り、物陰から何かがこちらへ飛びかかってきた!
「うへぁ!」と変な声をあげて倒れ込んだ俺の目に飛び込んできたのは、あの“黒猫”だった。
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