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改めて店内を見回す。
木材をふんだんにつかった店内はあたたかい雰囲気だ。外から見えたときはもっと暗いような気がしていたんだけど。
部屋の中心にはシャンデリア風の室内灯がある。アンティーク調で、なんだかおしゃれだ。
テーブルは黒の木材でシックに。夜はバータイムもあるのか、カウンターの奥にはお酒のビンが並んでいた。
「にゃぅ」
後ろから小さな声がした。振り返るとそこにいたのはあの黒猫だった。
「こらー、お前のご飯はさっきあげただろ~。おにいさんにねだってもダメだぞ~!」
「にゃにゃー……」
何かを抗議するように鳴いて、黒猫はすっと姿を消した。
「猫っていいですよね」
「おっ、お兄さんも猫好きなヒト?」
「そうですね。好き、でした」
そう。俺は猫が大好きだった。
実家で小さいころにどうしてもと頼み込んで飼うのを許してもらった黒猫がいた。
「俺も猫飼ってたんです。クロって名前で……先月、死んじゃったんですけど」
お冷の氷が溶けてカランと店内に響く。
「そっか。だからお兄さん、ここに来たんだね」
「え?」
店の奥から小さく扉が開くような音がした。向こうにも扉があったんだろうか。
「にゃぅ」
先ほどの黒猫がまたこちらに戻ってくる足音が聞こえる。
とたたた、という足音の他にもうひとつ聞きなれた音が聞こえてきた。
「おまえ……」
見知ったどころではない。十数年ともに暮らし、兄弟のように育ってきたものの姿を、見間違えるわけがない。
「クロ、なのか?」
重い足取りで遠慮がちに向かってきて、すり、と足元に頭を撫で付ける。
猫にしては長生きだったからあまり鳴かなくなったけど、特徴的な鳴き声だったから間違うわけもなく。
「……お兄さんはね、たぶんこの子に呼ばれたんだよ」
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