1章

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 マリアホリック。  その〝病名〟を初めて聞いたとき、どれだけファンタジックな病なんだ、と自分自身の症状を棚に上げて呆れた。  彼女はその後、とつとつとその病の説明をしたが、いかんせん初めての採血の最中だったせいで、あまり覚えていない。  緊張感と安堵。そして慟哭とも言える内圧から解き放たれる開放感。  それらが一気に押し寄せ、途中で気を失ってしまった。  だから今までほとんど意識してこなかった。  たまに思い出すのは、彼女――小野由紀菜、ひいては〝機関〟から受けているこの採血行為が、依存者(アディクト)と呼ばれる、会った事もない誰かのためのものだと鈍く自覚する時だけだった。  日名川岬は、視線を左腕に向けた。 「はい、終わり」  同じ部分に向かって彼女が告げる。  腕関節部分に浮いた血管から、注射針が突き出ている――いや、血管が太い針に貫かれている。針は短いカテーテルにつながり、その先には小さなプラスティックのチューブ。三百ミリリットル用量のそれには、岬の体内から抜かれた液体がたっぷりと入っている。  由紀菜は手慣れた手つきで穿孔部を滅菌ガーゼで覆う。目にもとまらぬ速さで針を抜くと、にこりと笑った。 「今日も七本いただきました。ありがとう、岬くん」  きゅっきゅっ、と二度ガーゼを押さえる。 「最近、自分で瀉血することが多いって言ってたから、ひょっとすると八本いくかなーって思ってたんだけど」  ガーゼが取り去られる。太い針が貫いていた皮膚だが、わずかな穴を残して修復されている。由紀菜はその上に丁寧に絆創膏を張り付けた。 「今日もやった?」 「うん」  岬はソファの端を見ながら頷く。由紀菜が困ったような、憐れむような顔をするのが分かった。 「酷くなってくね、OHGの症状」  彼女は岬の抱える〝病〟を、略称で呼んだ。 「原因……何だろう」  由紀菜は血液チューブをケースに収めると、腕を組んだ。
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