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「シャトー……だからフランスの、ボルドー地方。ルージュが赤で、ブランのこっちは白……アペラシオンは作られた場所……」
ラベルを指示しながら、彼が説明してくれた事だ。ワイン選びに使えるから、覚えておいて損は無い、と。
そして決まって最後に『俺は何でも好きだけどね』と笑う。
未成年と何話してるんですか、先生。
ガラスに映る自分の顔が、弱く笑んだ。
今日も飲むんですよね、先生。
あなたの病が一番激しくなる今夜。あなたを唯一慰めるその液体を、あなたはどれだけ欲するんですか?
一本ですか?
二本ですか?
体が壊れてしまいませんか?
僕がこれを一つ差し入れしたら、喜んで受け取ってくれますか。
自嘲に笑みが歪んだ。
奥歯をきしませ、棚に背を返す。そのまま棚にもたれ、目を閉じた。
【笹原統也 Ⅰ型 FMサージ high】
満月を背景に、偽りのネクターに溺れる彼の姿が瞼を流れる。
――先生。美味しいですか?
ボトルとグラスの代わりに、僕に触れてくれませんか。
その腕に抱いてくれませんか。
ガラスの中身は無くなるけれど、僕の中の血がついえることは無いから。
瞼を開ける。
キッチンの小窓から見える空は、もう、宵闇の気配を浮かべていた。
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