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はちまるごごうしつ。
エレベーターのドアが開くなり、岬はコンクリートの廊下を駆けた。
地上八階の空気に靴音がけたたましく響く。
八○五。そう書かれたドアの前で急停止する。手に握ったままのカードキーをリーダーに突っ込んだ。
ドアの奥でガチャリと音がする。ノブの抵抗が消えた瞬間、岬はドアを開け放った。
電気が消された玄関は薄暗かった。
エントランスでも部屋の前でも、チャイムは一度も鳴らしていなかった。
いつもは預かったカードキーでオートロックを開け、このドアの前で来訪を知らせる。
しかし今日は、そのひと手間すらまどろっこしかった。
「おじゃまします!」
岬は声を張り上げると、笹原家へと突入した。
短い廊下の先に見えるドアからは、光が透けて見えている。リビングダイニングには明かりが灯っている。
お願いだから、家にいてください。
日曜日の今日、岬はそう願いながらここまで全力疾走して来た。
「先生!」
バン! と扉を開く。
薄いカーテンが風に揺れていた。ひらめく布の迫間に、日没後の空が垣間見える。
誰もいない。
岬は焦燥と共に、ぐるりと部屋を見渡した。
長方形の部屋は無人だった。灯りだけが煌々と、整頓された部屋を照らしている。
ふと、ある物に目が留まった。
キッチンカウンターの下。コンパクトに作られた十本入りのワインセラー。
十六度と言う、赤ワインの保存に適した温度に設定されたセラーの中は、まったくのがらんどうだった。
ギリッ、と胸が締め付けられた。
「確か木曜日は……全部入ってたはず……なのに」
空のワインセラーに向かって、悄然と呟いた。
その時だった。
「岬?」
はっ、と顔を上げ、リビングを見た。
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