3章

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 小柄な少年が、目を丸くしてこちらを見ていた。 「鏡也」  瞬間、ほんの先日の記憶がよみがえってくる。  好きだと発した唇。  それが触れた場所。  意図せずとも岬の頬は紅潮した。  彼もまた、少し顔を赤らめて立っていた。  しかし驚いた雰囲気の方が勝っている。 「誰かと思った……どうしたんだよ? 急に」  戸惑いを浮かべた口調で尋ねる。  岬は鏡也へと駆け寄った。 「先生はいる?」 「兄貴? いや、ここにはいないけど」 「じゃあどこにいるか知ってるか!?」  思わず岬は、鏡也の肩を掴んでいた。  彼はますます驚いた顔で岬を見上げた。 「今日なんだよね、先生の〝あの日〟は。鏡也も知ってるはずだ。先生が一番酷くなるのは満月の日だって!」  鏡也の瞳が色を変えた。が、岬はそれに気づかなかった。 「どれだけ飲む必要があるのか分からないけれど、相当な量なのは確かだよ。体の方が先に壊れるかもしれない!」 「……」 「もう夜になる! 早くつかまえて僕の血を」 「飲まねぇよ」  鏡也はきっぱりと切り捨てた。 「え」  岬は鏡也を見つめなおした。  そしてここでようやく、彼の瞳に冷ややかな光が灯っていることに気づいた。 「兄貴は、血なんか飲まない。機関から送ってくる血は、兄貴の分も全部俺が飲んでる」 「……は?」 「それが兄貴のポリシーなんだよ。自分自身へのバカらしい懺悔だ」  鏡也の肩から両手が滑り落ちる。 「……懺悔?」 「そう。償いのために兄貴は血を飲まない。満月の日だって、ワイン何本飲んでるのか知らないけど、ふらふらになって帰ってくる」  鏡也は息をついた。 「それが兄貴の望みなんだ。だから好きなだけワインに溺れさせてやっていいんだ。たかが自己満足の自己嫌悪なんだから、勝手にやらせてりゃいいんだよ」  そして、岬から顔を逸らした。これ以上話すことは無い、と言うように。  しかし岬は食い下がった。
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