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「懺悔って、何の。先生に何があったの」
そっぽを向いたままの鏡也へ詰め寄る。
「鏡也は知ってるんだろ」
「知ってる」
「じゃあ」
「教えたら、兄貴を嫌うか?」
岬は息をのんだ。
「嫌うって……」
教えても嫌わないか、ではなく、教えたら嫌うか。
ネガティブなベクトルの願いがその一言に織り込まれている。
薄い表情が、こちらを向いた。
「兄貴はな、俺に噛みついて血を吸ったんだ」
「はっ?」
「俺が小五、兄貴が大学二年の時。兄貴は俺の首に噛みついて、思いっきり血を吸ったんだ」
鏡也の手が、己の首筋に伸びる。
細い首筋にかかるやわらかな髪を、サラリと後ろへ流した。
岬は目を見張った。
首の後ろの方。小さく丸い傷跡が縦に二つ、赤黒い痕跡となって刻まれていた。
並んだ二つの点。
それはまるで、吸血鬼が立てた牙の痕のようだった。
「か、噛みついたって……」
「兄貴には牙があるんだ。自分の意志で出し入れできる便利な牙さ」
解放された髪が、さらっ、と首筋を覆う。傷跡も隠れ、見えなくなる。
「あの満月の晩――家には俺と兄貴の二人だった。よく分からないうちに俺は兄貴に捕まって、噛まれて、血を吸われて、そして気絶した。目が覚めたら機関の病院だった」
ザワリと胸が不穏に鳴く。
「兄貴も、まさか俺が倒れるまで吸うつもりは無かっただろ。でも」
「子供の血は元々の量が少ない」
つぶやくように言い添えた。鏡也が一瞬、目を瞬く。
「そうだ。結果的に兄貴は吸いすぎた。俺を殺しかけたんだ。その過去を兄貴はずっと引きずってる。俺はその後マリアホリックについて知らされて、兄貴の吸血の意味も理解した。弟に手を出す羽目になったのも、きっとどうしようもない事情があったからだ、って事も」
ぐっと眉を顰める。
「正直バカらしいだろ。俺が気にすんなよ、って言っても兄貴は全然だ。不可抗力だったってのにもう何年も引きずってる。償いだのなんだのって自分自身を縛り付けて、それで俺が喜ぶと思ってんのか? バカ言え。あいつは自分の嘆かわしい過去と運命に酔いたいだけなんだよ!」
喚きが、リビングに響き渡った。
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