3章

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 はぁ、はぁ、と鏡也の喘ぎがそれに続く。  岬は唖然と立ち尽くしていた。  懺悔。  償い。  弟に手を出した罪への断罪。  蜜を拒む理由はあまりに幼稚で単純で、切実だった。  岬はふらりと身を返した。鏡也が顔を上げる。 「岬、どこ行くんだよ」 「……先生を探しに行く」 「っ」  腕をつかまれる。 「待てよ。放っておけって言ってんの、分からなかったのか?」  背に詰問がかかる。腕にかかる力は本気だった。 「分かるよ。そう言われてるのは分かる。先生が自ら望んで血を断ってるって事も」  肩越しに、ゆっくりと振り返る。 「理解できる。――でも、とっくに意味もない」  緑色の瞳と視線が交わる。 「鏡也だってそう言った。バカだって。今はただの自己嫌悪で自己満足だって。それなら、もういい加減に許してもらってもいいんじゃないかな」 「ゆるす……?」 「そう。――それから知ってほしいんだ」  深緑の奥へ、微笑んだ。 「このままだと、嘆くヤツが増えるばっかりだ、って」 「っ――」  鏡也が、息をのんだように見えた。 「だから、鏡也。離し」 「嫌だ」  短い拒絶を聞き留めた瞬間、強烈な力を受けた体がバランスを崩した。 「っ!」  背後のソファに倒れ込む。ギシッと大きく音が鳴り、衝撃が背を打つ。  ソファがきしみ、頭の上に影が落ちた。 「兄貴の所になんか行かせない」  岬は目を開いた。 「あいつに飲ませる血があるなら、俺がここで全部飲み尽くす」  跳ね起きかけた岬の体を、鏡也はソファに押し付けた。
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