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「きっ、鏡也っ!」
押し倒された格好のまま、岬は眼前の少年に抗議した。
彼は悔しげに顔をしかめ、岬をにらんだ。
「兄貴の事、好きなんだろ」
「え」
「分かってる。さっきの顔見れば、お前が兄貴の事好きなんだって丸わかりだ!」
瞬間、半開きの唇がふさがれた。
「っ! ん!」
乱暴に唇同士がこすれ合う。先日とは全く違う感触。唾液が混じり合い、音を立てる。全身が燃えるように熱くなった。
「ぁっ……はぁ……はぁ」
唇が解放され、喘ぎがこぼれる。仰ぎ見る鏡也もまた、肩を上下させていた。
彼の体が再び沈む。
「ッ」
岬は身をよじった。鏡也は岬の首筋に顔をうずめた。彼の髪と、荒い息が耳のそばを撫でた。
あの時の期待と鼓動がよみがえってくる。
その記憶の中の相手の――弟の唇が首筋に触れた。
「ふぁっ!」
それだけでビクンと体が跳ねた。
噛まれる。そこから血を飲まれる。
初めての場所を拓かれる事への怯えが、鼓動を加速させた。
歯が皮膚をこする。舌が熱い温度でまさぐる。
――が、そこまでだった。
痛みも、衝撃も、何もなかった。
「……?」
岬はうっすらと目を開いた。
「……クソっ」
小さく悪態をつきながら、鏡也がゆっくりと身を起こした。
「何で俺には……牙が無いんだよ」
悔し気な視線を横に流しながら、そう呟いた。
そうだ、彼に牙は無い。いつもフルーツナイフで血管を裂き、そこに唇を這わせていた。
「こういう吸血も、兄貴に譲れって……言われてんのか?」
己の病を心底呪うように、彼の声は震えていた。
岬はこの隙を突こうとした。
しかし、起こしかけた体は再びソファに押し付けられた。
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